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転勤を学生が敬遠する理由——不安の正体は「見通しが立たない」こと
「転勤ありと書いた途端に応募が減る」——採用の打ち合わせで、こうした声をよく聞きます。ただ、面談で学生の話を聞いていくと、転勤そのものを全否定している学生はそれほど多くありません。敬遠の正体は、転勤という制度ではなく、その先がまったく見えないことにあります。本記事では、転勤を学生が敬遠する理由を面談の現場から分解し、勤務地の見通しをどう示すかを整理します。
「転勤あり」は、それだけで即NGではない
パーソル総合研究所の「転勤に関する定量調査」(2024年)では、就活生・社会人のおよそ半数が、転勤のある会社への応募や入社を避けているという結果が示されています。数字だけを見れば、転勤ありは明確なハンディに映ります。
一方、私たちルビーインが年間5,000件の学生面談で聞く声は、もう少し幅があります。勤務地にこだわりはない、転勤があってもかまわないと話す学生は一定数います。むしろ、育った土地しか知らないので視野を広げたいという理由から、転勤を前向きに捉えている学生もいます。配偶者やパートナーの事情で将来的に動く可能性を想定し、異動できる仕組みがあるほうがいいと考えている学生もいます。
つまり、転勤を巡る学生の反応は一枚岩ではありません。「転勤あり=敬遠される」と単純化してしまうと、本来は受け入れられたはずの層まで取りこぼすことになります。
敬遠の正体は、転勤そのものではなく「見通しが立たない」こと
面談で印象に残るのは、転勤について「なんとなく嫌だ」と言いながら、その理由を自分でうまく言葉にできていない学生が目立つことです。掘り下げていくと、出てくるのは制度への反対ではなく、生活が想像できないことへの不安でした。人間関係がいったんリセットされること、友人と会いにくくなること、移動や引っ越しの負担が増えること。どれも「転勤が嫌」ではなく「そのあとどうなるかわからない」という形をしています。
同じ構造は、条件面の語られ方にも表れます。全国転勤という言葉に対して、学生が挙げる懸念は「どこに配属されるかわからない」という一点であることが少なくありません。逆に、行き先が都市部だとわかっている、あるいは特定のエリア内に限られていると聞いた途端に、それなら問題ないと態度が変わる学生もいます。
面談では、勤務地が確約できないことを理由に選考を辞退したという話も聞かれます。企業側からは「転勤が嫌で辞退した」と見えるかもしれませんが、学生の側の言い分は「確かめられなかったから決められなかった」です。ここが噛み合っていません。「配属ガチャ」への不安に向き合うときと同じで、不満の正体は割り当てそのものではなく、見通しのなさにあります。
学生が言葉にできていない不安を、4つに分解する
「転勤は嫌です」という一言の中には、性質の違う不安が混ざっています。面談で聞かれる声を整理すると、おおむね次の4つに分かれます。
### どこに行く可能性があるのか
全国という言葉は、学生にとって範囲が広すぎて意味を持ちません。実際にはどのエリアに拠点があり、新卒が配属される可能性があるのはどこなのか。都市部が中心なのか、地方の拠点も含むのか。この輪郭が描けるだけで、不安はかなり具体的なサイズに縮みます。
### いつ、どのくらいの頻度で起きるのか
面談で企業に確認したい項目として「転勤の頻度」を挙げる学生がいます。入社直後にあるのか、数年は動かないのか。生涯で何度くらいが一般的なのか。時期と頻度が見えないと、学生は最も悪い想定で受け取ります。
### いつまで続くのか
学生は入社後の数年だけでなく、その先のライフイベントまで見ています。面談では「将来的には落ち着いて定住したい」という声が目立ちます。若いうちの異動は受け入れられても、それが何十年も続くのかどうかは、まったく別の問題として捉えられています。
### 自分で選べる余地があるのか
希望を出せるのか、断ったらどうなるのか。ここは学生がいちばん聞きにくく、そして最も気にしている部分です。実務としては、断ることが可能でも、その後の任される仕事や役割に影響するかどうかは会社ごとに違います。この「実際どう運用されているか」が語られないまま制度名だけが示されると、学生は最悪の解釈を選びます。
見通しの示し方1:制度ではなく、運用の実態を語る
エリア限定コースがある、地域を選べる制度がある——制度の存在を示すだけでは、学生の不安は動きません。学生が知りたいのは、その制度が実際にどう使われているかです。
直近数年の新卒が、実際にどのエリアに配属されたのか。最初の異動は平均してどのくらい先だったのか。希望を出した社員がどうなったのか。数字や事例を持ち出せなくても、「うちの場合はこういう流れが多い」と傾向で語るだけで、学生の頭の中には輪郭が生まれます。抽象的な安心の言葉より、具体的な運用の説明のほうが、はるかに効きます。
見通しの示し方2:「わからない」を、わからないまま伝える
配属も異動も、企業の側でも確約できない場合があります。そのときに、無理に安心させようとすると逆効果になります。学生は選考中に聞いた説明と入社後の実態のずれに敏感で、口コミなどで裏取りをしているからです。
有効なのは、確定していることと、していないことを分けて示すことです。「初期配属は現時点でこの範囲を想定している」「その先は本人の希望と事業状況の両方で決まる」「希望は毎年出す仕組みがある」——このくらいの粒度でも、何も言わないのとは受け取られ方がまったく違います。見通しとは、確約のことではなく、判断の材料が揃っている状態のことです。
転勤をなくせない企業にできること
事業構造上、転勤をなくせない企業は少なくありません。それでもできることはあります。
ひとつは、転勤を単なる負担として扱わず、そこで何が得られるのかを具体的に語ることです。ただし「成長できる」という抽象的な言葉では届きません。異動先でどんな仕事を任され、その経験がその後のキャリアにどうつながったのか。実在の道筋として語れると、学生は転勤を自分のキャリアの一部として考え始めます。
もうひとつは、生活面の支援を具体的に示すことです。住まいや移動にかかる負担がどう扱われるのかは、学生が想像しにくく、かつ不安に直結する部分です。金額の話をしなくても、どんな支援の仕組みがあるかを伝えるだけで、想像の空白は埋まります。
そして忘れたくないのは、条件で絞り込む学生自身も、絞りすぎると選択肢が減ることに気づいている、という点です。面談では、転勤なし・休日重視・働き方の柔軟性をすべて満たそうとして候補がほとんど残らなくなった、と語る学生もいます。だからこそ、転勤ありの企業にも、見通しさえ示せれば検討の余地は残ります。「地元で働きたい」学生の本音と同じで、決めつけずに背景を聞くところから始まります。
よくある質問
Q1. 転勤ありの企業は、新卒採用で不利になりますか?
A. 条件だけを比べれば不利に働く場面はあります。ただ面談では、行き先や頻度の見通しが示されると態度が変わる学生も目立ちます。不利かどうかより、転勤の実態をどこまで具体的に語れているかを点検するほうが実務的です。
Q2. 学生から転勤について質問されたら、どう答えるのが良いですか?
A. 制度名で答えず、直近の実態で答えるのが基本です。実際にどのエリアに配属されているか、最初の異動はどのくらい先が多いか、希望はどう扱われるか。確約できない部分は、確約できないと明示したうえで、判断材料になる情報を渡します。
Q3. 転勤なしのコースを設ければ、応募は増えますか?
A. 選択肢が増えること自体は、学生の検討対象を広げる方向に働きます。ただし、コースを設けるだけでは不十分で、そのコースでどんな仕事を任され、どんなキャリアを歩めるのかまで示さないと、学生は待遇や成長機会の差を懸念します。制度と、その先の見通しはセットです。
まとめ
- 転勤を敬遠する学生は多いが、全否定ではなく、転勤を受け入れる・望む学生も一定数いる
- 「なんとなく嫌」の中身は、人間関係のリセットや生活の負担など、想像できないことへの不安
- 不安は「どこに/いつ・どの頻度で/いつまで/選べるのか」の4つに分解できる
- 制度名ではなく運用の実態を語り、確約できないことは分けて示す。それが見通しになる
転勤の有無は、学生にとって生活そのものの話です。だからこそ、条件欄の一行だけでは判断できず、判断できないまま候補から外れていきます。私たちルビーインは、逆求人型イベント『ウェルハンティング』の運営を通じて年間5,000件の学生面談を重ねるなかで、言葉になりきらない勤務地の不安に日々触れています。まずは自社の転勤について、「どこに・いつ・いつまで・選べるのか」を自分の言葉で説明できるか、確かめてみてください。
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