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若手の学び直しを支援する——制度が使われない理由と、時間の作り方
若手の学び直しを支援しようと制度を用意したのに、使うのはいつも同じ数人——そんな話は珍しくありません。原因は本人の意欲の低さではなく、多くの場合、時間と心理的な余裕が確保されていないことにあります。そしてもう一つ、学んだことが仕事に還ってこない構造も、学びを続かなくさせます。本記事では、若手の学び直しをどう支えるかを、面談と打ち合わせの現場の声と並べて整理します。
若手は「学びたくない」わけではない
まず、前提を一つ外しておきます。学び直しが進まない理由を「今の若手は成長意欲が薄いから」と説明すると、打ち手が精神論に寄ってしまいます。私たちルビーインが年間5,000件を超える学生面談で聞く声は、むしろ逆の傾向を示しています。
就職先を選ぶ軸として、「研修制度が充実していること」「教育制度が整っていること」を挙げる学生は非常に多くいます。理由も具体的です。いきなり現場に出るより、学んでから実務に入りたい。手に職をつけて、自分の力で立てるようになりたい。どこでも通用するスキルを身につけて、この先困らないようにしたい。「やっておいて、で丸投げする会社は合わない」と、はっきり言葉にする学生もいました。
つまり若手は、学ぶこと自体を避けているのではなく、学べる環境かどうかを企業選びの段階から見ています。入社後に学び直しが進まないのだとしたら、意欲ではなく環境の側を疑うほうが実態に近いはずです。
制度が使われないのは、たいてい三つの理由
用意した支援が使われないとき、背景にはおおむね三つの要因があります。
一つ目は、知られていないこと。入社時にまとめて説明された制度は、その時点では自分ごとになりません。必要になったタイミングで思い出せなければ、存在しないのと同じです。二つ目は、時間がないこと。費用を補助しても、平日は業務で埋まり、休日は回復に充てられていれば、学ぶ時間はどこにも残りません。三つ目は、言い出しづらいこと。これが最も見落とされます。学んでいると知られたら「転職の準備か」と思われないか。業務外のことに時間を使って、評価に響かないか。この不安があると、制度があっても手が伸びません。
三つ目に効くのは、制度の設計ではなく空気です。だからこそ、次の問いを避けて通れません。
「学ばせたら辞めるのでは」に、どう向き合うか
支援をためらう理由として、この不安を口にする経営者や上司は少なくありません。スキルが上がれば選択肢が増える。それは事実です。実際、面談でも「転職するときに活かせるスキルや実績がほしい」「持ち運べる力を身につけて、この先困らないようにしたい」と語る学生がいます。
ただ、この言葉を「いつでも辞めるつもり」と読むのは、少し急ぎすぎだと感じます。彼らが求めているのは、多くの場合、辞めるための武器ではなく、自分で立てるという安心です。会社に自分の人生を丸ごと預けるのは不安だから、預けなくても大丈夫な状態にしておきたい——そういう感覚に近い。
そして現実的な話をすれば、学び直しを支援しない選択が定着につながるわけでもありません。伸びている実感が持てない職場のほうが、若手は静かに離れていきます。支援を止めても人は残らず、支援した結果として辞める人が出ることはある。それでも、学べる場所として選ばれるほうが、採用の入り口でも有利になります。抱え込むより、選ばれ続けるほうに賭けるという判断です。
学びが続くのは、仕事に還る回路があるとき
三つの要因のうち、時間と空気の話に入る前に、続かなさの根っこに触れておきます。ここで補助線になるのが、教育学者のデイヴィッド・コルブが提唱した「経験学習モデル」です。人の学びは、具体的な経験をし、それを振り返り、そこから使える形に整理し、次の場面で試す——この循環のなかで定着していくという捉え方をします。
この視点を借りると、学び直しが続かない理由が見えてきます。研修や資格の勉強は、この循環の一部分でしかありません。学んだ内容を試す場がなく、振り返る相手もいなければ、循環は閉じないまま止まります。そして人は、手応えのないものを続けられません。
裏を返せば、支援の設計で最も効くのは、費用でも講座数でもなく、学んだことを使う場面をつくることです。資格の勉強をしている若手に、関連する業務を少しだけ任せてみる。学んだ内容を朝礼で三分だけ共有してもらう。それだけで、学びは机の上から仕事の中へ移ります。使う場面がある学びは、放っておいても続きやすくなります。
時間をつくる——「業務外でどうぞ」をやめる
時間の問題は、気合いでは解けません。有効なのは、学ぶ時間を業務時間の中に小さく埋め込むことです。
たとえば、月に一度、決まった時間を学習に充てられるようにする。会議を一本減らして、その枠を学びに回す。始業直後の短い時間を、各自の学習に使ってよいことにする。大きな仕組みでなくてかまいません。大切なのは、「業務時間内に学んでよい」と会社が明示することです。この一言があるかないかで、若手が感じる後ろめたさはまったく変わります。
もう一つ、忘れたくないのが繁忙期の扱いです。忙しい時期に学習時間だけが真っ先に削られる運用が続くと、「結局は建前だ」と受け取られます。削らざるを得ないときは、なぜ今回は難しく、いつ戻すのかまで伝えてください。
心理的な余裕をつくる——学んでいると言える空気
時間が確保できても、言い出しづらさが残っていると使われません。ここで効くのは、上の立場の人が先に開示することです。上司自身が「今これを勉強している」と話す。うまくいっていないことも含めて話す。学ぶことが特別な行為ではなく、この職場では当たり前の風景なのだと伝わると、若手も口にしやすくなります。
もう一つは、学びの内容を評価から切り離しておくことです。何を学ぶかを会社が指定しすぎると、学び直しは業務の延長になり、自分ごとにはなりません。本人が何に関心を持っているかを起点にするほうが、結果として続きます。
その関心を掘り起こす場としては、日常の対話が有効です。本人の希望を押し付けずに言葉にしていく進め方は、1on1でキャリアビジョンを一緒に描くで扱っています。また、何を伸ばすかを考えるときは、苦手の克服に寄せるより、弱みを直すより強みを伸ばす視点で選ぶほうが、本人の熱が続きやすくなります。学び直しの支援は、この二つの延長線上にあります。
費用をかけずにできること
支援というと費用補助が思い浮かびますが、お金をかけずにできることは少なくありません。
一つは、社内で教え合う場をつくること。誰かが学んだことを短時間で共有する会を、月に一度でも設ける。教える側にとっても、人に説明する行為は理解を深める機会になります。二つ目は、すでにある業務を学びの場として捉え直すこと。新しい取り組みに若手を一人加える、他部署の打ち合わせに同席してもらう——これも立派な学び直しです。三つ目は、振り返りの相手になること。経験学習の循環を閉じるには、振り返る場が要ります。上司が十五分だけ時間を取って「何が見えたか」を聞く。この一手は、どんな講座よりも安く、そして効きます。
制度の充実では、規模の大きな組織にかないません。けれど、経験を渡す速さと振り返りの距離の近さは、小さな組織のほうが有利です。そこを支援の軸に据えるほうが現実的で、自社の魅力としても語れます。
よくある質問
Q1. 学び直しの支援制度をつくっても、使う人が限られます。どうすればよいですか?
A. 制度を増やす前に、知られているか・時間があるか・言い出しやすいかの三点を確認してみてください。多くの場合、内容ではなくこの三つのどれかで止まっています。特に「業務時間内に学んでよい」と明示するだけで、使われ方が変わることがあります。
Q2. 若手にスキルをつけると、転職されてしまいませんか?
A. その可能性はゼロにはなりません。ただ、伸びている実感が持てない職場のほうが、若手は静かに離れていきます。学べる場所として選ばれることは、採用の入り口でも効いてきます。抱え込むより、選ばれ続ける方向で考えるほうが現実的です。
Q3. 何を学んでもらうか、会社が指定すべきですか?
A. 業務に直結する内容は指定してよいと思いますが、すべてを指定すると業務の延長になり、自分ごとになりません。本人の関心を起点にしたほうが続きやすく、学んだことを仕事で試す場面をつくると、会社にも還ってきます。
まとめ
- 若手は学びを避けているのではなく、学べる環境かどうかを企業選びの段階から見ている
- 制度が使われない理由は、知られていない・時間がない・言い出しづらい、の三つに集約されやすい
- 学びが続くのは、学んだことを試し、振り返る回路があるとき
- 「業務時間内に学んでよい」と明示し、繁忙期の扱いまで運用として決めておく
- 費用をかけずとも、教え合う場・経験を渡すこと・振り返りの相手になることで支えられる
若手の学び直しを支援することは、講座を買うことではなく、学べる時間と空気を用意することに近い取り組みです。私たちルビーインも、逆求人型イベント『ウェルハンティング』で、学生が何を学び、どう伸びていきたいかを1対1でじっくり聞き取る場づくりに伴走しています。まずは、自社の若手が「業務時間内に学んでよい」と思えているかどうかを確かめてみてください。制度の前に、そこが入り口になります。
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